質 問 日:令和3年3月1日(月)
質 問 者:小池 ひろのり 議員
質問方式:分割 方式
1.県独自の給付型奨学金制度の創設について
私が、45年前に県立定時制高校の担任をしていた時、クラスに児童養護施設出身の2人の生徒がいました。一人は全くの天涯孤独、もう一人は3姉妹の長女で、2人とも親の顔すら知りませんでした。2人とも物心がつく頃には、施設で育てられていました。2人は、中学卒業後、准看護師の資格を取り、病院の夜勤の時などは一睡もする事もなく働き続けたまま、定時制高校に通いました。そして、ほとんど欠席することなく、4年間かけ見事に定時制高校を卒業し、看護師として巣立って行きました。
2人とも頭は良かったのですが、なぜか大学へ進学する気など全くないと私は思っていました。しかし、今から思えば、大学の事を口にすら出さなかったのは、経済的な理由だったと想像します。
皆さん! 今もこの状況は全く変わっていません。児童養護施設出身の子供は、施設を出た途端、住居費や食費等の生活費を全て自分で稼がなくてはなりません。更に、進学するには、入学金・授業料が必要ですが、施設の子供にはそんなお金はありません。だから最初から大学進学などは諦めているのです。
大学へ行く場合、日本には奨学金制度が有りますが、ほとんどが貸与型で、借りた奨学金は大学を卒業すると同時に、何百万円と言う借金に変わります。その借金には利息が付き、サラ金と同じく返済が滞ると5%の延滞金もつきます。
借りた奨学金を、9割以上の人が大学卒業後、10~20年かけて返済しています。しかし、大学を卒業したからと言って、全員が安定した職業に就ける訳ではありません。中には生活が厳しく、奨学金返済をしたくても出来る状態ではない人もいます。
先日、こんな話が届きました。
「私は、貸与型奨学金で大学を卒業しました。すぐ、約600万円の借金を抱え込み、これまで毎月3万円、利息を含めて18年間で返還し、40歳で完済する計画を立て頑張ってきました。しかし、コロナ禍でもう無理です!助けて下さい。」と…。
このように貸与型奨学金が大きな負担となる場合もあります。いろいろな事情で、“貧困の連鎖”中で生きている人もいるのです。
仮に皆さんの所に、施設の子供が「お金はないが、大学へ行きたい!」と相談に来たら、皆さんはどんな返事をしますか?貸与型奨学金や金融機関からお金を借りるように勧めますか? 全て借金になることを含めて勧められますか?
家庭が貧しいとか、児童養護施設で育ったことは、子供の責任ではありません。貧困家庭や施設の子供は、社会人になっても、“貧困の連鎖”の荷を負わねばならないのは理不尽だと思いませんか!
私は5年前(2016年)、給付型奨学金を求め文部科学省に陳情に行きました。現場の声を熱心に聞いてくれた官僚は、給付型奨学金制度に理解を示し、国会でも取り上げられたこともあり、ついに2017年に給付型奨学金制度を創設してくれました。そして、初めて日本にも給付型が創設され、遅ればせながら先進国入りを果たしました。しかし、まだまだ決して十分な内容とは言えません。
奨学金は国の事業ですが、国の支援から漏れ、現実に目の前に困った県民がいれば、国に改善を求めると同時に、県が独自の支援を差し伸べることが必要ではないでしょうか!
現在、早急に対策を講じる必要がある課題で、児童養護施設の子供が、経済的な理由で進学を諦めきっている状態が長年続いていることです。施設の子供の大学進学率は、40年以上一桁でした。2019年に12.7%となりましたが、それでも一般家庭59.9%の1/4以下という低さのままです。施設の子供の進学率を、せめて一般家庭水準に近づける努力をして頂けませんか! 貧困家庭や児童養護施設の子供たちに経済的支援をして、進学する機会を与え、夢や希望を与えて下さい。
私は、あらゆる人に、平等に学ぶ機会を与えることが、教育の基本であると考えています。貸与型奨学金で、大学卒業後も借金生活を負わせるのではなく、出来るだけ平等に社会人としてスタートが出来るような状況にして頂きたいと願っています。
現在、コロナ禍で経済格差が、ますます広がっています。それが子供の教育に影響が出始めています。授業料が払えず、退学に追い込まれる学生が増えています。また、大学進学を諦めかけている高校生がいます。更に、昨年は高校生の自殺が、過去5年間で最多となりました。出来るだけ平等に教育が受けられる社会にするためにも、給付型奨学金で救って下さい。そして、貧困家庭や施設出身の子供たちが、少しでも支えられていると、実感出来る社会にして下さい。
そこで、夢や目標を与えてくれる県独自の給付型奨学金制度の創設を強く求めます。井戸知事の最後の仕事として、今まで陰に隠れていた小さな声にも、救いの手を伸ばしてもらいたいと思います。知事のご所見を伺います。
2.がん対策推進について
【1】がん検診受診率向上について
がんが死亡原因の第1位になったのが、1981年。日本人の2人に1人ががんに罹ると言われるようになってから、急速にがん診療体制も充実し、今ではがんと共生する時代となりました。
全国がんセンター協議会の調査によれば、がん治療後10年の生存率は、前立腺がんで98.8%、乳がんで86.8%、甲状腺がんで85.7%となっています。早期発見で転移がなければ、ほぼ治ると言う医療専門家もいます。
しかし、がんと共生する時代になったとは言え、実際に、がんを告知されると当事者は、衝撃を受け、気持ちが動揺し、恐怖心に襲われるものです。
「まさか自分が、がんになるはずがない」、「何かの間違いであって欲しい」、「もう仕事は出来ないだろう」等、更に進んで、不安と死に対する恐怖に掻き立てられることも多々あります。
私は、これまで家族や友人、同僚らに支えられながら、自分を変え、社会を変え、がんを取り巻く環境を変えるために、がん対策に取り組んできました。
2002年、「地域がん診療拠点病院」が整備され、医療体制が充実しました。その後、相談支援センターが配置され、治療だけでなく、仕事や日常生活まで幅広く、丁寧に対応されるようになりました。
また、兵庫県では、2012年に受動喫煙の防止等に関する条例が成立し、未然にがんを防ぐ足掛かりも出来ました。そして、早期発見で、がんが治ると言われる昨今では、がん検診の重要性がさらに高まってきています。
しかし、本県のがん検診受診率は伸び悩んでおり、特に胃がんの検診は36.8%で、47都道府県の中で44位、乳がんは42.2%で42位というように、全体的に受診率が低いと言えます。
2015年に「がん対策加速化プラン」、2019年に「がん対策推進条例」が制定されました。この流れを機に、県民の皆さんを始め、医療関係者や患者団体、行政などが共に手を携えて、がん対策の取り組みを強化したいと思います。
そこで、質問します。なぜ兵庫県のがん検診受診率が低いのでしょうか?
また、その対策はどのように取り組まれているのかお伺いします。
【2】がん相談支援センターの充実について
現在、県内には16か所の国指定がん診療連携拠点病院の中に、がん相談支援センターが配置されています。そして、名実ともにがんと共生する時代を実現させ、がんを告知された当事者の不安を除くためにも、相談支援の役割が重要になってきています。
しかし、2018年の同支援センターの利用率は9.6%で、決して十分に活用されているは言えません。利用率が低いのは、何処に原因があるのでしょうか?
また利用率を高めるために、どんな施策に取り組まれているのかお伺いします。
3.体験型ツーリズムの推進について
1983年~2002年の20年間、私は、中国サイクリングを続けました。坂井・貝原・井戸知事の3代に渡って支援を受け、体験型ツーリズムを展開しました。変わったツーリズムと言うことで、マスコミも応援してくれました。
朝日放送にはハイヤー送迎付きでテレビ出演、NHKはBS1の英語で全世界への放映、関西テレビ・サンテレビは中国まで同行取材、中国電視台は「高度4千メートルをサイクリング!」と題して全国放映してくれました。毎日新聞は正月版の新聞一面で、神戸新聞は連載で掲載し、各社が競って訪中前と後に記事を書いてくれました。そのお陰で、毎年参加申込者が殺到。断るのに一苦労でした。参加者は20年間で延べ1,000名、中国全土サイクリングの走行距離は、2万2千キロに達しました。35年経過した今でも、団員とは苦闘と感動の体験に花が咲きます。
こんな話をすると、皆さんは特別な人たちだと思われるでしょう! 私も、石子路之会(いしころのかい)訪中サイクリングは、そうだと思っていました。外国まで自転車で行くのだから、当然、それ相応の人たちが申し込むものと思っていました。ところが、あにはからんや電話での申込み受付け時、「私、自転車に乗れます。ママチャリで毎日、買い物に行っています」と言うではありませんか!つまり、全くの素人が申し込んでくるのに気が付きました。
以来、私は考えを変えました。ベテランから素人まで一緒に、この感動を味わう体験型ツアーに切り替えました。お陰で、これが20年もの長きに渡り続いた要因となりました。仮に、ベテランだけのプロ集団では、決してこんなに続かなかったと思います。
56キロを歩く六甲全山縦走もそうです。今まで過酷なスポーツとは縁遠い人たちも、この縦走に参加出来ます。そして、周りに励まされ、最後までやり切れば達成感・充実感を味わうことが出来ます。また、スポーツは可能性を引き伸ばし、『やれば出来る』という自信も与えてくれます。そして、その自信が次なるチャレンジの源となります。失礼ながら、井戸知事も11年間、この六甲縦走にチャレンジをし、完走をされています。11年は、そう簡単には続けられません。すごい事だと思います!
特色あるスポーツは、癖になり毎年参加したくなるものです。
これと同じことが旅行でも言えます。単なる観光は、一瞬の喜びで終わりますが、体験型は感動・達成感・充実感を伴い、リピーターとなり家族や友人を巻き込み、拡がっていくものです。私は、篠山マラソンにも第1回から参加しています。近隣のフルマラソンも総なめしました。日本選抜で、ハワイのトライアスロン世界選手権大会にも出場しました。まさに、体験型スポーツに取りつかれ、まるで病気にかかったように取り組んできました。
そんな経験から播磨中央自転車道や2010年に始まった淡路島のロングライドサイクリングを提唱しました。全国にセンチュリーラン(160キロの自転車コース)が取れる所は、淡路と琵琶湖と北海道しかありません。もっとしっかり売り出せば、宮古島のトライアスロン大会のように、全国から人は集まって来る大会になると思っています。淡路島のサイクリングを体験型ツーリズムで売り込み、更に全国区に押し上げていただきたいと思います。
また、先端医療を活用した医療ツーリズム、有馬・城崎の温泉ツーリズム、六甲山・神鍋のスキー、更にサイクリング、ゴルフ・味覚ツーリズムで、兵庫の5国の良さを生かして、単品ではなく、複合・体験型ツーリズムとして、国内外からの誘客を呼び掛けては如何でしょうか! 値打ちのある旅であれば、私の時はマスコミが宣伝してくれたように、今なら感動をSNSや動画、WEBサイトで拡散してくれます。
昨年は、コロナで追われた1年でしたが、これからは、ポストコロナを見据えた先駆的な政策を積極的に取り組む時だと思います。日本交通公社の調査によると、コロナが収束したら世界31の国と地域の中で、一番訪れたいのが日本だったそうです。兵庫県への国内外からのインバウンドを取り込むためにも、今から、しっかり準備すべきと思いますが、如何でしょうか?
沖縄県では、コロナ禍であっても、先を見据えて、これまでのアジアからのインバウンドの誘客の戦略を練り直しています。体験型ツアーで、北海道・静岡県をパートナーとして、富裕層を対象に欧米からも迎え入れる戦略を練っています。是非、兵庫県も、このパートナーに加わり、神戸を空と海のハブ港として活用してもらいたいと思います。そして、体験型ツーリズムを産業の重要な政策として位置づけ、特色を持たせた兵庫版の体験型ツーリズムにプロモーションを強化し、国内外からの誘客で、元気な兵庫の発展に繋げていくことを願うものです。当局のご所見を伺います。
4.夜間中学創設について
現在の夜間中学は、①戦後の生きていくだけで精一杯の時代に、学校に行く余裕等なかった人で、今や80歳近い高齢者と、②現代の義務教育に馴染めず不登校になった若者等が一緒になって、共に『生きる力』をつけるために、学び直す場として活用されています。
2019年の調査では、不登校生は全国で23.1万人、兵庫県内にも約1万人いるそうです。うち6割が90日以上の長期欠席者で、学校へ行けず勉強をしていなくても卒業証書だけは与えられた、いわゆる“形式卒業生”がいます。しかし、現場の先生方は、目の前に居る生徒だけで精一杯。学校に馴染めず不登校になっている児童に対して、殆ど手が回らないのが現状であると言えます。
そこで、直近の5年間で約5割も増え続けている義務教育の不登校生に対し、早急に対策をする必要があると考えます。
2017年に「教育機会確保法」が施行され、義務教育が抜け落ちた人に「地方自治体は、学び直す場を提供する責務がある」と明記されました。つまり、義務教育と言う以上、いろんな事情で学校へ通えなかった全ての人に対して、行政は面倒を見る責務があると、はっきり謳っています。そこに、学び直す場として“夜間中学”があります。
私が、夜間中学を視察した時の生徒の声を紹介します。
「小学校にもろくに通っていないことが、ばれるのがイヤやった。でも『生きる力をつけたい!』という願いから夜間中学へ入学しました。」とか、「買い物時、釣銭が計算出来るようになりたい」等、夜間中学へ通う心境を語ってくれました。今、小学校で不登校だった10歳代の若者と一緒になって通う、“77歳の中学生”の切実な声もありました。
現在、県内の夜間中学は、尼崎と神戸市に合せて3校あります。しかし、それ以外の地区には“学び直す場”がありません。2015年、私はこの問題を取り上げ、西播地区に夜間中学の創設を訴えました。今では、教育関係者の間では、夜間中学の必要性は共通認識になっています。
しかし、姫路市は、「協力はするが、姫路市だけの問題ではない。広域な問題なので県が中心となって…」と筋論を主張。一方、県教育委員会は、“義務教育は市町の管轄”とこだわり、県民の該当者の切実な願いが置き去りとなり、県・市の譲り合いが続いています。
県教委は、3年前に対象者を調査し、昨年、模擬授業を実施しましたが、ここまで来るのに、私が最初に質問してから実に6年が経過しました。あまりにものんびりし過ぎてはいませんか! 仮に今すぐ創設すると決定しても、実際に開校するまで2年位はかかります。戦後の混乱期に義務教育が抜け落ちた人たちは、その頃には80歳を超えてしまいます。半数の人が亡くなっているかもしれません。ここ1~2年が勝負です。彼らにとっては、時間がないのです。枝葉の問題は、走り出しながら考えることにして、まずは動き出して下さい。不登校だった人にとっても、学び直す場を1日でも早く提供すべきです。開校も4月にこだわらず、半年でも早く開校する努力をしていただきたいと思います。
岡山県では、3年前に、夜間中学の創設を8万枚のチラシと公民館の掲示などで広報したにもかかわらず、開校時に実際集まった生徒は、わずか3名でした。それでも頑張り続けた結果、年度末には40名、今では230名が通っているそうです。チラシが読めない人に、チラシを配っても効果は低く、実際に夜間中学を創設し動き出すことにより、口コミで生徒が集まって来たのだと思います。
岡山の例を挙げるまでもなく、該当者はどの地区にも広域に点在しているのは事実です。
私は、対象者が広域に点在しているがゆえに、県が中心となり市町と協力して、兵庫県西部の8市10町のどこからでも通える夜間中学を創設して頂きたいと願っています。そして、“生きる力をつけたい”と言う県民の声に応え、義務教育から抜け落ちた人たちを、夜間中学でフォローして頂くことを強く願うものです。是非、前向きなご答弁をお願いします。