概要 代表・一般質問 議案に対する態度と考え方 提案説明 討論
2024年2月定例会 修正動議提案説明
説明者:迎山 志保 議員
会派を代表し、第1号議案 令和6年度兵庫県一般会計予算、並びに、第49号議案 兵庫県県政改革方針の変更、具体的に申しますと県立大学無償化予算について、その修正案の提案説明を行います。
まず、修正案提案に至った理由について述べます。 私たちは教育の無償化そのものを否定するものではありません。教育への投資は未来への投資であり、教育予算の拡充は私たちもこれまで一貫して求めてきたことであり、知事の、教育に力を入れて若者を応援する、という考えには大いに賛同致します。
しかし、県立大学無償化についてはどうしても看過できない公平性と透明性という二つの問題があると考え、修正案の提出に至りました。
まず公平性についてです。無償化の恩恵を受ける受益者の範囲と言ってもいいですが、同様の教育無償化の実施が決まっている大阪府と比較します。 大阪府の授業料無償化の対象は高校と大阪公立大学です。高校は国公立のほか、私立も含まれ、制度への不参加は1校のみ、96校が無償化の対象となります。現在、高校進学率は約99%ですから、府内で暮らすほとんどの生徒、世帯が恩恵をうける制度です。
一方、兵庫県の教育無償化は県立大学2校のみで高校は対象外であり、受益者は高校卒業生の1.7%、大学等進学者の2.6%です。同じ教育無償化の取組と言いますが、大阪府と比べて恩恵を受ける学生や世帯の比率は天地の差です。
しかも、兵庫県では博士後期課程3年も無償化の対象としたことで最長9年間無償となる可能性があり、この場合、現在の学費で計算すると支援総額は1人あたり約530万円にもなります。 同じ兵庫県内に住み、税負担する世帯の若者が高等教育を受けようとする時、ほんの一握りの人だけがこうした多額の恩恵を受けることは行政の公平性を考えれば腑に落ちないのです。
大阪府では今から5年も前の2019年3月に「高等学校等の授業料無償化等を推進する条例」が議員提案により制定され、議会で活発な議論が行われてきました。無償化の議論のスタートはそもそも高校が対象だったのです。
その後、昨年の統一地方選挙で初めて吉村知事が高校に加えて大阪公立大学も無償化することを公約に追加したという経緯があります。このように議論を積み重ねてきた大阪府の無償化政策ですが、兵庫県は県立大学だけを無償化することを約半年前に公表しました。結果、受益者が極めて限定的な教育無償化案となっています。
そしてこれは、修正案を提出したもう一つの大きな理由である政策決定過程の透明性の確保の問題に通じます。
「県立大学の無償化」は昨年8月、知事によって突如記者発表されました。県の予算歳出の査定を行う財政部門の担当者が知らされたのは発表前日であったと聞きました。大きな財源、永続的な予算計上を要する施策であるにもかかわらず、ごく限られたメンバーでの非公開の議論のみをもって大々的に発表されました。私たち議会にも公表直前まで全く知らされておりませんでした。
今回知事が看板政策として打ち出された県立大学無償化ですが例えば選挙公約に掲げるなどして県民に賛否を問うことができていれば議論はまた違ったものになったと思います。齋藤知事の公約には学びの充実として、私立学校の保護者負担軽減や「30人学級の導入」が掲げられておりますが、それらの公約実現は未達成なままに、若者支援の第一歩として県立大学無償化が打ち出されました。 民意を聞くという点では、パブリック・コメント手続きも行われていません。多額の財源を負担する県民やステークホルダー、今後少子化が進み経営が困難となるであろう私立大学関係者から今回批判的な声も上がっていますが、施策を打ち出す前にこうした意見を聞く機会を設けなかったのは理解に苦しみます。
予算特別委員会総括質問で我が会派の黒田議員が、パブリック・コメントを実施していないことに加え、「重要施策等の政策形成・意思決定等を行う会議等」として、「不妊治療支援検討会」をはじめ知事肝いりの幅広いプロジェクトに関する議事録や有識者委員等がつまびらかになっている一方、この「県立大学の無償化」についてはオープンな議論が一切行われていない理由を質しました。これに対する明確な答弁はありませんでしたが、本政策の重要性に鑑みても、県民や有識者などの意見を踏まえる必要があったのは当然のことだと考えます。
大阪府では選挙後も知事を本部長とし、主要幹部がメンバーとなっている大阪府戦略本部会議を開いて大学無償化が議論されています。そして会議の模様、資料や議事録も全て公表され透明性を確保しています。この戦略本部は、府の組織としての決定を担う機関とされ部局の長なども会議に参画していますが、兵庫県では全幹部の集まる政策会議で議論されたことも一度もないのです。
私が本会議の代表質問でこうしたことを指摘したのが昨年12月6日でした。その後、大阪公立大学の制度とほぼ同様の具体案が入試直前の12月27日に公表されました。その後もパブリック・コメントなどの手続きは省略され、本日、議決の日を迎えました。そして来月この制度は大阪府と同時にスタートしようとしています。
真に先駆的に無償化政策に取り組み議論を尽くしてきた大阪府とは財政状況も全く違う兵庫県が同じような制度、ある意味、それ以上に充実した制度をこのように拙速に進める妥当性は見出せません。 県立大の無償化は選挙で有権者の信を問うたわけでもなく、県民の意見聴取の機会も設けられず、負の影響もあるステークホルダーとの議論も行っていません。 施策実現に至る契機となったと言われる大学生との2回の対話の記録にも目を通しましたが、とても政策形成過程と呼べるものではありません。これで施策の透明性の確保や丁寧な運営が行われてきたと言えるでしょうか。 本当に悔しいことですが、今回の政策形成の透明性は大阪府と比較して雲泥の差と言わざるを得ません。
また、議会との関係で言えば、無償化に必要な財源措置、県立大学への交付金増額を含む本予算が可決・成立していない、つまり実現が決まっていない段階で、無償化の成果として「県立大学の出願者が増えた」等SNSで知事自ら発信されていますが、予算を可決や否決、修正等の態度を議決するのは私たち議会の権能であり、それが決定事項となります。県のHPには「現時点での案であり、正式に決定するのは、議会の議決を経た後となります」と断りが記されてはいますが、提案すれば議会の議決は当然のこと、と私たちは見込まれているのでしょうか。
長年にわたって議論を重ねてきた大阪府の無償化政策、所得制限を設けて公平性の担保を図ろうとしている東京都の無償化政策、そして今回提案された兵庫県の無償化政策。 将来負担比率全国ワーストの兵庫県がごく一部の受益者に手厚い支援を行うことの理解を得るに十分な議論を行ったと、私たち議会は県民に胸を張れるでしょうか。自信を持って可決することができるでしょうか。
一方、我々が提案する修正案は、国民的課題である高等教育費の負担軽減の第一歩として4年前に国が創設した高等教育の修学支援制度に兵庫県独自で支援の対象者を増やすものです。 国の制度では世帯年収380万円までを対象として実施されており、県立大も含めて低所得者への就学支援は既に国が一定の役割を果たしているのです。
今回、我々は県立大学無償化で見込まれる約5億円の来年度予算を国公立や私立大学等へ通う学生にも恩恵が及ぶ形へ修正します。 具体的には、国制度では世帯年収270万円までが91万円、年収300万円までが61万円、年収380万円までが30万円、それぞれ給付されますが、今回の予算案で計上されている無償化予算額をこちらに振り替ることで年収500万円までの世帯に支援を拡大したいと考えます。
統計上、世帯収入380万円から500万円の割合は約12%と推計されますので、大学進学者2万8千人の12%、3360人に15万円を支給することが可能です。そのための予算として5億400万円と諸経費、計5億1851万5000円を措置するものです。
以上のことを踏まえ、令和6年度関係議案について、次のとおり議案の修正動議を提出します。
まず、第1号議案 令和6年度兵庫県一般会計予算について、款:教育費のうち、項:大学費5億1851万5000円減額し、新たに項:高等教育費を追加し同額を計上するもので、歳入・歳出ともに合計に変更はありません。
次に、第49号議案 兵庫県県政改革方針の変更について、県立大学無償化の事業を見直すことにより、今後の財政フレームに変動が生じるため、該当部分を修正するとともに、兵庫県公立大学法人の「③ 高等教育の負担軽減」の項目及び説明のすべてを削除するものです。
なお、この修正案につきましては、2021年6月9日、本県議会において全会派一致で議決された「学生に対する支援の強化を求める意見書」の内容、「2020年度に開始した国の大学等修学支援制度の対象は、低所得世帯の一部に限定されており、幅広い学生が十分活用できる制度となっていない」「国におかれては、学生の困窮実態に即して、支援を行う必要があることから、下記事項に取り組まれるよう強く要望する」とし「高等教育の修学支援新制度について、世帯年収約380万円未満などの要件緩和を図るなど支援を強化すること」とした文言と齟齬がないものです。
議員の皆様、今回、大きな覚悟を持って修正案を提出するのはこの施策の性格上、一度予算を認めてしまうと方針転換が不可能だからです。知事と同じく県民から負託を受けた私たちは将来長きにわたる責任を負っています。
今一度、重要なこの施策を改めて皆でしっかり議論いたしませんか。知事、当局、県民の皆さんと私たち議会で、優先順位は、事業効果は、財源はと、前向きな議論をいたしませんか。皆様には 本提案説明で申し上げた客観的事実を改めてご賢察いただき、兵庫県の未来に禍根を残さないためにも、お一人お一人の心に従ったご判断をお願いしたいと思います。
片方の翼だけで鳥は空を飛べません。二元代表制の一翼としての議会の力を私は信じています。時に大きな推進力になり、時には一旦立ち止まる。
私たち議会に与えられた大きな権能をもって提起させて頂いた今回の修正案です。知事も目指しておられる誰一人取り残さない社会、より多くの若者にチャンスと希望を与える兵庫県の実現に向けた本修正案へご賛同をお願い申し上げ、私からの提案理由の説明とさせていただきます。